
パーキンソン病とは?
パーキンソン病と診断されたり、その疑いがあると言われたりして、「これから自分の体はどうなってしまうのだろう」と、不安や戸惑いを抱えていらっしゃることも多いと思います。
パーキンソン病は、脳の特定の部位の変性で体が動きにくくなる病気です。確かに進行性の病気ではありますが、現在はお薬やリハビリテーションの研究が大きく進歩しており、症状をコントロールしながらご自分らしい生活を続けられる時代になってきています。
まずは、病気と向き合い、正しい知識を持つことから一緒に始めていきましょう。
病態のメカニズム

私たちが「手足を動かそう」と思ったとき、脳の中にある「黒質(こくしつ)」という部分で作られる「ドパミン」という物質が、神経を通じて筋肉に命令を伝える役割を果たしています。
パーキンソン病は、何らかの理由でこの黒質の神経細胞が徐々に減少し、脳内のドパミンが不足してしまう病気です。ドパミンが不足すると、脳からの「動け」という命令がスムーズに全身へ伝わらなくなってしまいます。その結果、自分では動かそうとしているのに、体がこわばったり、動きがゆっくりになったりといった、運動の障害が引き起こされます。
主な原因とリスクファクター

なぜ黒質の神経細胞が減ってドパミンが不足してしまうのか、その根本的な原因は現代の医学でも完全には解明されておらず、多くの場合は特定の原因がない「特発性(とくはつせい)」とされています。
発症の最大のリスクファクター(危険因子)は「加齢」です。50歳代から60歳代での発症が多く、高齢になるほど発症する割合が高くなります。一部に遺伝的な要因が関係するケース(家族性パーキンソン病)もありますが、全体の数パーセント程度であり、ほとんどのパーキンソン病は遺伝するものではないと考えられています。
パーキンソン病の主な症状

パーキンソン病の症状は、大きく分けて運動に関わる「4大症状(4大兆候)」と、それに伴う「その他の症状(非運動症状)」に分けられます。まずは、パーキンソン病を特徴づける有名な4つの運動症状から詳しく解説していきます。
パーキンソン病の4大症状
- 安静時振戦(あんせいじしんせん): じっとしている時(安静時)に、手や足、あごなどが無意識に細かく震える症状です。手で丸薬を丸めるような動き(丸薬丸め運動)が見られることもあります。何かを取ろうと動かした時には震えが止まることが多いですが、人前で字を書く時や食事の時に気になってしまい、外出をためらう原因にもなります。
- 筋強剛(きんきょうごう)/筋固縮(きんこしゅく): 筋肉がこわばって、関節の曲げ伸ばしが硬くなる症状です。他人が患者様の腕や足を動かそうとすると、歯車がカクカクと引っかかるような抵抗を感じるのが特徴です。ご自身では気づきにくいこともありますが、これにより「寝返りが打ちにくい」「服を着替えるのに時間がかかる」といった日常の障害が生じます。
- 無動・寡動(むどう・かどう): 全体的な動きがゆっくりになり、動作そのものが小さくなります。歩く時の腕の振りが小さくなったり、まばたきが減って表情が乏しくなったり(仮面様顔貌)、声が小さくなったりします。周囲からは「元気がなくなった」「怒っているのか」と誤解されることもあります。
- 姿勢反射障害(しせいはんしゃしょうがい): 体のバランスを崩した時に、とっさに足を踏み出して立て直すことが難しくなります。病気が少し進行してから現れやすい症状で、歩き出しや方向転換の際に転びやすくなり、転倒による骨折のリスクに直結するため、特に注意が必要です。
その他の症状(非運動症状など)
実は、体の動きにくさといった運動症状だけでなく、目に見えにくい「非運動症状」も頻繁に現れ、生活の質に大きく影響します。
具体的には、頑固な便秘、立ち上がったときの立ちくらみ(起立性低血圧)、頻尿といった「自律神経の症状」や、気分の落ち込み(うつ症状)、幻覚、睡眠障害などです。また、手の震えなどの運動症状が出る何年も前から、便秘や嗅覚の低下(においがわかりにくい)、寝ている間に大声を出したり暴れたりする睡眠障害(レム睡眠行動障害)などが先行して現れていることが多いとされています。
一般的な治療と回復の経過

診断初期~進行期の治療
パーキンソン病の治療の基本は、不足したドパミンを補う「投薬(薬物療法)」です。最も代表的な「L-ドパ(レボドパ)」というお薬などを適切に服用することで、劇的に動きが良くなり、発症前とほとんど変わらない生活を送ることができる期間(ハネムーン期)が長く続きます。
しかし、長くお薬を飲み続けて病状が進行してくると、お薬の効き目が短くなって1日の間で症状が良い時と悪い時の波ができる「ウェアリング・オフ現象」や、薬が効いている時に体が勝手にくねくねと動いてしまう「ジスキネジア」といった合併症が現れることがあります。 お薬の調整が難しくなった進行期には、脳の深い部分に微弱な電気刺激を送って運動の回路を調節する「脳深部刺激療法(DBS)」などの外科的な治療が選択されることもあります。
症状の進行と予後について
パーキンソン病は進行性の病気ですが、その進行は年単位で非常にゆっくりとしたものです。重症度は「ホーン・ヤールの重症度分類(Ⅰ度〜Ⅴ度)」という指標で評価されます。 昔は不治の病として恐れられていましたが、現在は医療の進歩により、適切な治療とリハビリを続ければ、パーキンソン病の患者様の平均寿命は一般の方とほぼ変わらないと報告されています。焦らず、気長に病気と付き合っていく視点が大切です。
退院後(自宅)の生活とリハビリの重要性

日常生活で気をつけるポイント
ご自宅で長く安全に生活を続けるためには、お薬のコントロールと生活環境の調整が不可欠です。
- お薬の時間を厳守する: パーキンソン病のお薬は、飲むタイミングが少しずれるだけで体がパタリと動かなくなることがあります。医師に指示された時間を必ず守り、自己判断での増減は避けてください。
- 転倒しにくい環境づくり: 姿勢反射障害や、足が前に出なくなる「すくみ足」により、ちょっとした段差や狭い場所(トイレの入り口など)で転倒しやすくなります。導線の整理や手すりの設置、滑りにくい靴下の使用など、ご自宅の環境を見直しましょう。
- すくみ足への工夫: 歩き出そうとしても足が床に張り付いたように動かなくなる「すくみ足」が起きた時は、無理に足を引っ張り上げようとせず、「1、2、1、2」と声に出してリズムを取ったり、床の目地やテープなどの目印を「またぐ」ように意識すると、スッと足が出やすくなります。
継続的なリハビリが必要な理由
パーキンソン病のリハビリにおいて最も恐ろしいのは、「動かないから、もっと動けなくなる」という悪循環(廃用症候群)です。
体がこわばって動かしにくいと、どうしても動くのが億劫になります。しかし、動かないでいると筋肉はますます硬くなり、筋力も落ちてしまいます。「病気の進行」以上に、この「二次的な体の衰え」が生活の質を大きく下げてしまうのです。
お薬が効いて体が動きやすい時間帯(オンの時)を見計らって、ストレッチや歩行練習、大きな声を出したり大きく体を動かすリハビリを継続することで、この悪循環を断ち切り、身体機能を長く維持することが可能になります。
パーキンソン病でお悩みの方へ(認定理学療法士からのメッセージ)

パーキンソン病は確かに進行性の病気ですが、その進行は非常に「緩徐(ゆっくり)」です。日々のリハビリテーションに関わる中で私が強く感じているのは、患者様が動けなくなっている原因は、病気そのものの進行だけではないということです。
むしろ、筋肉が固くなって動かしにくさを感じた時に、「自分はもう病気が進んで動けないんだ」と思い込んでしまい、動くことを無意識に避けてしまう。その結果として本当に関節が固まり、筋力が落ちて悪化してしまうという「二次的な要素」が非常に大きいのです。
パーキンソン病のリハビリでは、脳のメカニズムを利用したちょっとした工夫が劇的な変化を生むことがあります。例えば、楽しい会話や明るい気持ち(情動)が引き金となって、普段出ないようなスムーズな動きがパッと引き出せることがあります。また、歩き出しで足がすくんでしまう「すくみ足」も、床にテープを貼って「ここをまたいでください」と視覚の情報を入れたり、手拍子でリズムを取ったりするだけで、即時的に驚くほどスタスタと歩けるようになることは珍しくありません。環境の工夫次第で、できることはまだまだたくさんあるのです。
「体が固まって動かない」というのは、決してあなたの努力不足でも、すべてが病気の進行のせいでもありません。「動けない」と諦めてしまう前に、ご自身の体に合ったスイッチ(視覚や聴覚のヒント、環境の工夫)を一緒に見つけていきませんか。あなたが本来持っている「動けるポテンシャル」を引き出すお手伝いを、私たちは全力でサポートいたします。
参考・引用文献
- 日本神経学会『パーキンソン病診療ガイドライン2018』
- 難病情報センター『パーキンソン病(指定難病6)』




