脳出血とは?
脳出血は、脳梗塞やくも膜下出血と並ぶ「脳卒中」の一つであり、脳内の細い血管が破れて出血してしまう病気です。
ある日突然発症し、生活や後遺症に対して、ご本人もご家族も大きな不安を抱えられていることと思います。
まずはこの病気について正しく理解することが、
リハビリへ向かうための第一歩となります。
病態のメカニズム

脳出血は、脳の内部を通る細い血管が何らかの原因で破れ、脳の組織内に直接血液が流れ出してしまう病気です。
硬い頭蓋骨で囲まれた脳の中で出血が起こると、あふれ出た血液は逃げ場を失い、やがて固まって「血腫(けっしゅ)」と呼ばれる血の塊を作ります。 この血腫が、周囲の健康な脳細胞を強く圧迫したり、あるいは流れ出た血液が脳の神経細胞を直接破壊したりすることで、身体を動かすための命令がうまく伝わらなくなり、さまざまな障害を引き起こします。
これが脳出血の基本的なメカニズムです。
脳の細胞は一度死滅してしまうと、基本的には元には戻りません。
しかし、脳出血という疾患には重要な特徴があります。それは、機能が失われている原因が「細胞の完全な破壊」だけでなく、「血腫による物理的な圧迫」による部分も非常に大きいということです。
そのため、時間の経過とともに血腫が体内に吸収され、脳への圧迫が徐々に取れていく過程で、大きく機能が回復(改善)するケースがあります。
主な原因とリスクファクター

脳出血を引き起こす最大の原因は「高血圧」です。
長期間にわたって血圧が高い状態が続くと、脳の細い血管に常に強い圧力がかかり続けます。
その結果、血管の壁がもろく傷み、動脈硬化が進行して、ちょっとした血圧の変動(例えば、トイレでいきんだ時や、急に冷たい空気に触れた時など)で破れやすくなってしまうのです。
日本脳卒中学会が定めるガイドラインによると、高血圧のほかにも「喫煙習慣」や「1週間に150g以上の多量の飲酒(ビール中瓶なら毎日約1本以上)」が、脳出血を引き起こす強力な危険因子(リスクファクター)として明確に指摘されています。
また、比較的ご高齢の方に多い原因として、脳の血管に「アミロイド」と呼ばれる特殊な異常タンパク質が蓄積し、血管がもろく破れやすくなる「脳アミロイド血管症」という病気が背景にあることも少なくありません。いずれにしても、日頃からの血圧コントロールと生活習慣の見直しが、最大の発症予防となります。
脳出血の主な症状

脳出血が起こると、出血した脳の部位や血腫の大きさによって、人それぞれ全く異なる症状が現れます。
代表的な症状は以下の通りですが、これらが日常生活にどのような影響を及ぼすのかを知っておくことが大切です。
- 運動麻痺(片麻痺):
脳出血で最も多く見られる症状です。
身体の左右どちらか半分の手足が思うように動かなくなったり、力が入りにくくなったりします。これにより、
「お箸がうまく使えない」
「服のボタンが留められない」
「歩くときに足が引っかかる」
となどといった悩みを抱える人がいます。 - 感覚障害:
麻痺がある側の手足の感覚が鈍くなり、
「触られている感じがしない」
「お湯の熱さがわからない」
といった症状が出ることがあります。
逆に、少し触れられただけで強い痛みや痺れ(しびれ)を感じてしまうケースもあります。 - 言語障害(失語症・構音障害):
「言いたい言葉が頭に浮かばない」
「相手の言っていることが理解できない」
といった失語症や、口や舌の筋肉がうまく動かず、ろれつが回らない構音障害が現れることがあります。
(※言語の障害に関する詳しい解説は、失語症などの詳細ページをご覧ください) - 高次脳機能障害:
記憶力が低下する、集中力が続かない、新しいことが覚えられない、感情のコントロールが難しくなり怒りっぽくなる、といった目に見えにくい脳の機能障害です。
身体は動くのに生活がうまくいかない原因となり、ご本人だけでなくご家族も戸惑うことが多い症状です。
(※高次脳機能障害の詳しい解説は、該当の症状別ページをご覧ください)
一般的な治療と回復の経過
急性期~回復期の治療

発症直後から約2週間までの「急性期」には、まず命を救い、これ以上出血を広げないための治療が最優先で行われます。
血圧を下げるお薬を点滴し、厳密な血圧管理を行います。出血量が多い場合や、脳の圧迫が強く命に危険が及ぶ場合には、頭を開いて血の塊を取り除く「開頭血腫除去術」や、小さな穴から内視鏡を入れて血腫を吸い出す「内視鏡下血腫除去術」といった外科的手術が行われます。
全身の状態が落ち着けば、可能な限り早い段階からベッドから起き上がる「早期離床(そうきりしょう)」を図り、リハビリテーションを開始します。ガイドラインにおいても、廃用症候群(寝たきりによる機能低下)を防ぐため、早期からの歩行訓練などを開始することが推奨されています。
その後、「回復期」と呼ばれる時期(発症後数週間〜数ヶ月)に入ると、リハビリ専門の病院や病棟に移ります。ご自宅への退院や社会復帰に向けて、歩行訓練を行う理学療法、食事や着替えなど日常生活の動作を練習する作業療法、言葉や飲み込みの練習をする言語聴覚療法を、専門チームと共に行い、本格的な機能回復を目指します。
後遺症と予後について

脳出血は、出血の勢いで脳組織を直接破壊してしまうため、血管が詰まる「脳梗塞」と比べても、重篤な後遺症(重い片麻痺、重度の感覚障害など)が残りやすい傾向があると言われています。
人間の脳には、壊れてしまった神経のネットワークを迂回し、残された健康な細胞同士が新しい回路を繋いで失われた機能を補おうとする「脳の可塑性(かそせい)」という能力が備わっています。
この「脳の可塑性」を最大限に引き出す適切なリハビリテーションを掛け合わせることで、機能改善を目指します。
退院後の生活とリハビリの重要性
日常生活で気をつけるポイント

病院でのリハビリを終え、ご自宅での生活が始まると、多くの患者様が
「再発したらどうしよう」
という不安を抱えています。
脳出血を経験された方にとって、退院後の最大の目標は「絶対に再発させないこと」です。
再発を予防できれば、安心して日々の生活やリハビリに向き合うことができます。そのために、以下の点を必ず守ってください。
- お薬の確実な服用:
医師から処方された血圧を下げるお薬などは、自己判断で絶対に中断せず、毎日決まった時間に服用してください。
私も急性期で勤務していた時に、自己判断で薬をやめ再発された方を何人か経験しました。 - 家庭血圧の測定:
朝起きた後と夜寝る前、ご自宅で血圧を測る習慣をつけましょう。数値をノートに記録し、医師と共有することが確実な予防につながります。
血圧の変動に敏感になることが大切です。 - 生活環境の調整:
ちょっとした段差でつまずいて転倒し、骨折してしまうと、せっかくの回復が台無しになります。手すりの設置や段差の解消など、ご自宅を「安全に動ける環境」に整えることが大切です。
継続的なリハビリが必要な理由
「退院したから、もうこれ以上は良くならない」
と誤解されている方が非常に多くいらっしゃいますが、脳の回復(可塑性)は退院後も続きます。
- 自宅に帰ってから出てきた悩み
- 病院では練習できなかったこと
- 麻痺のある手足を動かす練習
むしろ、退院後こそが本当のスタートと言っても過言ではありません。
麻痺があるからといって、無意識のうちに「動かしにくい手足」を使わなくなってしまうと、脳が「この手足はもう使わないのだな」と学習してしまい、機能がさらに落ちてしまう「学習性不使用(がくしゅうせいふしよう)」という深刻な状態に陥ります。
使わない筋肉は徐々に痩せ細り、関節はガチガチに固まる「拘縮(こうしゅく)」を引き起こしてしまいます。
これらを防ぎ、さらに機能を向上させるためには、
専門家の視点を交えながら、ご自身の身体に合った継続的なリハビリを行うことが不可欠です。
日常生活の中で「自分のできる動き」を少しずつ増やしていくことが、後遺症と上手に付き合い、自信を取り戻すための最大の鍵となります。
脳出血でお悩みの方へ(認定理学療法士からのメッセージ)

脳卒中認定理学療法士として、これまで数多くの脳出血の患者さんと向き合ってきました。
確かに、脳出血という病気自体は非常に重篤な疾患です。しかし、実は脳そのものの細胞がすべて完全に壊れてしまったわけではなく、「血の塊(血腫)による圧迫」が原因で手足が動かなくなっている部分も非常に大きいのです。
そのため、時間が経って圧迫が取れてきたり、適切な体の動かし方を学んだりすることで、その改善度合いは脳梗塞よりも良くなる場合が多々あります。
退院後、患者様の多くが「この手足はもう一生使えないんだ」と思い込み、ご自身の中に眠っている大きな可能性に蓋をしてしまっているのを目の当たりにしてきました。本来なら「まだまだできるはずのこと」が、諦めや誤解によって「できないこと」になってしまっているのは、本当に悔しいです。
このサイトが発信するメッセージを通して、常に「できることが何かないか」を探す姿勢を皆様にお伝えしたいと思っています。
最初から「どうせ無理だ」と決めつけるのではなく、一緒に「できること」を一つでも、二つでも見つけていきたいです。
また、回復に向けた道のりでは、「とにかく早く歩けるようになりたい」と焦るお気持ちは痛いほどよくわかります。
しかし、時間や効率だけを求めて、本来の正しい体の使い方を無視し、無理やり健康な側の手足だけで補おうとする「不必要な代償動作」を身につけてしまうと、将来的な本当の回復を妨げる大きな原因になってしまいます。
わたしたちは、患者さん一人ひとりの「本来の回復の可能性」を専門的な視点でしっかりと予測します。
一見遠回りに見えても、将来的に一番良い結果につながるような正しい知識とサポートを提供したいと考えています。決して一人で諦めず、ご自身の身体の可能性を信じて、一緒に次の一歩を踏み出してみてください。
参考・引用文献
- 日本脳卒中学会『脳卒中治療ガイドライン2021』
- 日本脳卒中データバンク『脳卒中データバンク2021』





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